学生野球でサングラスは不適切?デメリットを本気で調べてみた

以前、こんな記事を書きました。
「夏の大会!学生野球にサングラスは必要なのか」
この記事では、
強い日差しの中でプレーする野球選手にとって、サングラスにはどんなメリットがあるのかを調べました。

結論としては、
「夏の野球なら、適切なサングラスはむしろ使った方がいいんじゃない?」
という内容です。

◯まぶしさを抑える。
◯光を見た後の視覚への影響を抑える。
◯紫外線から目を守る。

特に真夏のグラウンドで何時間もプレーする高校球児を考えれば、サングラスを使うことには十分合理性があります。

ところが――。

それでも一定数いるんですよね。

「高校生がサングラスなんておかしい」
「高校野球でサングラスなんて生意気だ」

みたいな意見。

いやいや。
令和ですよ(笑)。

「昔はそんなもの付けなかった」
「高校球児らしくない」
「見た目がよくない」

……それって、
サングラスそのものの問題というより、
単なるイメージの問題では?

とはいえ、ここで私も考えました。

そこまでサングラスを嫌がるのであれば、
もしかすると本当に野球の
パフォーマンスを低下させるデメリットがあるのかもしれない。

前回はメリットを中心に調べたので、今回は逆です。

サングラスをかけることで、

  • ボールが見えにくくなる?
  • 距離感が狂う?
  • 暗くなって反応が遅れる?
  • レンズの色によっては逆効果?
  • 偏光レンズは野球に向いていない?
  • フレームが視野を邪魔する?

こうした「サングラスのデメリット」だけに焦点を当てて調べてみることにしました。

もし本当にデメリットが大きいのであれば、

「高校球児はサングラスを使わない方がいい」
という結論になるかもしれません。

逆に、調べても大した問題が出てこないのであれば、
「高校生がサングラスなんておかしい」
という価値観の方を、
そろそろアップデートした方がいいのかもしれません。

ということで今回は、
高校野球×サングラスの
「デメリット」を科学的な視点から調べてみます。

■デメリット①

「レンズによってはコントラスト感度が低下する」

これは実際に注意した方がよさそうです。
野球では単に
「視力1.5あります!」
だけでは十分ではありません。

重要になる視覚機能の一つが、
コントラスト感度
です。

簡単に言えば、

「背景の中から対象物をどれだけ見分けられるか」
という能力。

野球なら、
・空を背景にした白球
・芝や土の上を転がるボール
・バックネットや観客席と重なる投球
などを瞬間的に認識する必要があります。

実際、585人のプロ野球選手を
対象にした研究では、
視力だけでなくコントラスト感度などの
視覚機能と打撃パフォーマンスとの
関連が調べられています。

つまり野球では「見える・見えない」だけではなく、
「どれだけ素早く、はっきり対象を認識できるか」
が重要になるわけです。

そしてサングラスは、
レンズによってこの能力に影響する可能性があります。

2023年に発表されたクリケット選手21名を対象とした研究では、クリア・青・G30(ローズ系)・赤のレンズを比較しています。

すると、
青色レンズではクリアレンズよりコントラスト感度が低下。
一方、
赤色レンズではコントラスト感度が改善しました。
つまり、
「サングラスなら何でもいい」わけではない。
ここは重要です。

「暗ければ眩しくないからOK!」
と適当に選んでしまうと、
視覚機能にとって最適ではない可能性があります。

参考研究:

Frontiers | Sunglass tint does not impact the indoor catching performance of cricket fielders

pubmed.ncbi.nlm.nih.govpubmed.ncbi.nlm.nih.gov

■でも実際の「捕球能力」は?

ここからが面白いところです。

先ほどの研究では、
レンズカラーによってコントラスト感度などには違いが出ました。

では、
実際にボールを捕る能力はどうだったのか?
選手にボウリングマシンから18球を投げ、
捕球数や捕球の質を比較しました。

結果は、
レンズカラーによる有意な差はありませんでした。
つまり、
「特定のレンズで視覚機能の測定値が変化した」
ことと、
「実際にボールが捕れなくなった」
ことは同じではありません。

これはかなり重要です。
サングラスのデメリットを調べるときも、
検査室で視覚機能が少し変わった=野球のパフォーマンスが落ちる
と短絡的に考えてはいけません。

なお、この研究は
野球ではなくクリケットで、しかも屋内実験です。
真夏の高校野球のグラウンドにそのまま当てはめることはできません。
それでも少なくとも、
「色付きレンズを使ったら球技の捕球能力が落ちる」
という単純な話ではなさそうです。

Frontiers | Sunglass tint does not impact the indoor catching performance of cricket fieldersSunglasses are worn by outdoor athletes such as cricketers fowww.frontiersin.org


■デメリット②

「暗すぎるレンズは状況によって不利になる可能性」

サングラスの目的は光を減らすことです。
だったら、
「できるだけ暗いレンズの方がいいんじゃない?」
と思うかもしれません。
でも当然ながら、
光を減らしすぎれば対象も暗くなります。

特に高校野球では、
・雲が太陽を遮る
・夕方になる
・守備位置によって影に入る
・ダグアウトからグラウンドへ出る
・空から地面へ視線を移す
など、光環境が常に一定ではありません。

炎天下では快適だった濃いレンズが、
曇天や夕方では必要以上に暗く感じる可能性があります。

つまり、
「晴天で快適なレンズ=あらゆる環境で最適」ではない。
レンズの濃さについても、
「とにかく濃ければいい」
ではなく、
実際にプレーする光環境に合わせる必要があります。


■デメリット③

偏光レンズは本当に「距離感が狂う」のか?

スポーツサングラスについて調べていると、
「偏光レンズは距離感が狂うから球技には向かない」
という話を見かけることがあります。

私もここは気になったので調べました。
偏光レンズは、路面や水面などから
生じる特定方向の反射光をカットし、
眩しさを抑える仕組みです。

そのため、
釣り
ドライブ
ランニング
サイクリング
などでは非常に便利です。

2023年の研究でも、
偏光サングラスは道路からの水平偏光成分を大きく抑え、
グレアを減少させることが示されています。

では、距離感はどうでしょうか?

2025年に45名を対象として、
裸眼・非偏光サングラス・偏光サングラスで
視覚機能を比較した研究があります。

裸眼での立体視は平均94.33 arc sec。
偏光サングラスでは101.33 arc sec。
非偏光サングラスでは105.67 arc sec。

数値上はサングラス装着時にやや悪化していますが、
その変化は統計的に有意ではありませんでした。
さらに偏光レンズは、非偏光レンズより良い値でした。

つまり現時点の研究から、
「偏光レンズを使うと距離感が狂う」
と断言するのは難しいです。

むしろグレアを抑えるメリットもあります。

ただし、この研究も高校野球選手を
対象にしたものではありません。

高速で飛んでくるボールの軌道予測まで検証した研究ではないため、
「偏光なら絶対に問題ない」とまで言うのも早い。

このあたりは、
実際の競技環境での研究がもっと必要でしょう。

参考研究:

Effect of polarized sunglasses on visual functions

pubmed.ncbi.nlm.nih.govpubmed.ncbi.nlm.nih.gov


■デメリット④

「フレームそのものが邪魔になる可能性」

これはレンズではなく、
サングラスの「形」の問題です。

野球では正面だけを見ているわけではありません。
打球を追う。
走者を見る。
送球先を見る。
周辺視野から味方や相手選手を確認する。
かなり広い範囲の視覚情報を使っています。

そのため、
太すぎるフレームや視野を遮るデザインは
競技には向かないでしょう。

また、
・走ったときにズレる
・汗で滑る
・帽子と干渉する
・鼻や耳が痛くなる
・レンズが曇る
こういった問題も、
実際の競技では無視できません。

視覚的に優秀なレンズでも、
全力疾走するたびにズレていたら意味がありません。

これはかなり重要だと思います。


■ではサングラスは野球のパフォーマンスを上げるのか?

ここも冷静に考える必要があります。

前回の記事ではサングラスのメリットを紹介しました。

しかし、
「サングラスをかければ打率が上がる」
とまで言える強い科学的根拠があるわけではありません。

大学野球選手20名を対象に、
着色コンタクトレンズを使ってシーズン中の
打率、長打率、出塁率、守備率などを比較した研究があります。

着色レンズ使用時にパフォーマンスが良くなる傾向はありました。

しかし、
統計的に有意な差は確認されませんでした。
選手自身は視覚やパフォーマンス上のメリットを感じていましたが、
「サングラスを使えば野球が上手くなる」
とまでは言えないわけです。

参考: A study investigating a season’s baseball performance while wearing SportSight soft contact lenses: phase III

https://commons.pacificu.edu/works/publication-dissertation/rg79d-2g356


■強い日差しではメリットを示す研究もある

ここまでデメリットを探してきました。

でも逆方向の研究も確認しておきましょう。

33名を対象に自然光の中で
スポーツ用着色レンズを検証した研究では、
アンバーおよびグレーグリーンの着色レンズによって、

・強い日差しでの視覚回復
・コントラスト識別
・明るい場所と影にある対象を交互に見る能力
などがクリアレンズより改善しました。

これは前回の記事でも紹介したポイントです。

野球は、
「強烈に明るい空」→「暗い芝・土」
のような視線移動を繰り返します。

外野フライを追った直後に
中継プレーへ移る場面などを考えると、
このような視覚特性には一定の意味がありそうです。

参考研究:

https://eurekamag.com/research/056/881/056881888.php

pubmed.ncbi.nlm.nih.govpubmed.ncbi.nlm.nih.gov


■結局、「デメリット」はあったのか?

今回、あえてサングラスに不利な情報を中心に調べました。

結果をまとめると、
・レンズカラーによってコントラスト感度などが変化する可能性がある
・暗すぎるレンズは光環境によって使いにくくなる可能性がある
・フレームやフィット感によっては競技の邪魔になる
・サングラスをかければ野球の成績が上がると断言できるほどの研究はない

このあたりはデメリット、
あるいは注意点として考えていいでしょう。

一方で、
「サングラスをするとボールが見えなくなる」
「距離感が狂って危険」
「野球のパフォーマンスが落ちる」
と一括りにして否定できるほどの科学的根拠も、
今回確認した研究からは見えてきませんでした。

むしろ強い日差しでは、
適切な着色レンズによって
視覚パフォーマンスが改善する
可能性を示した研究もあります。

だから私の結論は、
サングラスが悪いのではなく「選び方」が重要
ということです。


■何でも良い訳では無い

私は夏の高校野球でサングラスを使うこと自体には賛成です。

ただし、
「サングラスなら何でもいい」
とは思いません。

競技用として考えるなら、
UVカット性能があること。
炎天下でも暗すぎないこと。
ボールと背景のコントラストを邪魔しにくいレンズを選ぶこと。
周辺視野を大きく遮らないこと。
全力疾走してもズレにくいこと。
実際の練習で十分に試してから試合で使うこと。
このあたりは重要でしょう。

特に、
買ったばかりのサングラスを大会当日に初めて使う
というのは個人的にはおすすめしません。

練習で、
「フライは見やすいか?」
「ゴロはどうか?」
「スローイングはどうか?」
「日向と日陰を移動したときは?」
「夕方は暗すぎないか?」
まで確認する。

その上で自分に合うものを使えばいい。
極めて普通のスポーツ用品の考え方だと思います。


■「学生らしくない」は科学的なデメリットではない

今回一番書きたかったのはここです。

サングラスにも注意点はあります。

だから、
「サングラスには一切デメリットがありません!」
とは言いません。

でも今回調べた限りでは、
「学生がサングラスをするなんておかしい」
という意見を科学的に正当化するような材料は見つかりませんでした。
(といかある訳がない)

結局、
「見た目が気に入らない」
「昔はそんなことしなかった」
「高校球児らしくない」

という話と、
「競技パフォーマンスや健康上どうなのか?」
という話は分けて考えるべきです。

スポーツの世界は変わっています。
トレーニングも変わった。
栄養も変わった。
水分補給の考え方も変わった。
暑熱対策も変わった。
道具も変わった。

昔は練習中に水を飲むことすら否定された時代がありました。
でも今、それを
「根性がつくから正しい」
と言う人はほとんどいないでしょう。

だったらサングラスだって同じです。
「昔は使っていなかったから」ではなく、
メリットとデメリットを調べて判断すればいい。

私はその結果、
夏の高校野球では、
(小学生であっても)
適切なサングラスなら積極的に使っていい
と考えています。

もちろん、使いたくない選手に
無理やり使わせる必要もありません。

大切なのは、
「高校生らしいかどうか」ではなく、
その選手にとって合理的かどうか。

高校野球も、
そろそろそこを基準に考えていいんじゃないでしょうか。

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