言葉や思考で痛みが増す? 絶対に避けたい「ノーセボ効果」とは

病院や施術、トレーニングの現場で、
次のような説明を受けたことはありませんか?

「腰の骨がすり減っています」
「身体がかなりゆがんでいます」
「このままだと、もっと悪くなります」
「この痛みとは一生付き合うしかありません」

このような言葉を聞くと、誰でも不安になります。

そして、その不安や
「自分の身体は壊れている」という思いが、
痛みをさらに強くする場合があります。

この現象と関係するのが、
プラセボ効果の反対にあたる「ノセボ効果」です。

この記事では、
ノセボ効果について解説します。

■結論:言葉や思い込みも痛みに影響する

ノセボ効果を簡単に説明すると、

「悪くなるかもしれない」
という予測や不安によって、
実際に症状が強くなる現象のことです。

例えば、

  • 痛みが強くなると言われる
  • 治療は効かないと言われる
  • 身体が壊れているように説明される
  • 将来悪化すると強く言われる
  • 他人のつらい体験談を何度も見る

こうした情報によって、
痛みや不快感が増すことがあります。

ここで大切なのは、
本人が嘘をついているわけでも、
単に大げさに反応しているわけでもないということです。

ノセボによって生じる痛みや不調も、
本人にとっては本当に感じている症状です。


プラセボ効果との違い

プラセボ効果とノセボ効果は、
期待が身体へ与える影響という点では共通しています。

画像

ただし、期待だけですべての症状が決まるわけではありません。

薬の作用、けが、炎症、病気、睡眠、ストレス、生活環境など、多くの要因の一つとして期待が影響します。


■なぜ言葉で痛みが変わるのか?

痛みは、解剖学だけの問題ではないんです。

脳は、身体から入ってくる情報をもとに、

  • 今の状態は危険か
  • 身体を守る必要があるか
  • その動作を続けても大丈夫か

を予測しています。

このとき、
強い不安や恐怖があると、
脳は身体を守るために警戒を高めます。

  • その結果、
    痛みに注意が向きやすくなる
    1. 小さな違和感にも敏感になる
    2. 身体を動かすことが怖くなる
    3. 動かないことで体力や自信が低下する
    4. さらに痛みを感じやすくなる

という流れが生じることがあります。

ノセボ効果に関係すると考えられている主な要素は、次のとおりです。

  • 否定的な予測
  • その場で生じる不安
  • 過去の痛みの経験
  • 痛みへの過度な注意
  • 医療者や施術者から受けた説明
  • 家族や知人の体験談
  • テレビやSNSから得た情報

■分かりやすい研究結果の紹介

ノセボ効果を示す有名な研究があります。

Bingelらの研究では、
強力な鎮痛薬を使用しながら、
参加者へ伝える情報を変えました。

条件は、主に次の3つです。

  • 薬が始まったことを知らせない
  • 「鎮痛薬を始めます」と伝える
  • 「鎮痛薬を止めます」と伝える

実際には薬が体内に入っていても、
「薬を止める」と伝えられた条件では、
鎮痛効果がほぼ打ち消されました。
(痛みが出てきた)

反対に、「鎮痛薬を始める」
と伝えられた条件では、
鎮痛効果が高まりました。
(痛みが和らいだ)

さらに、脳画像でも期待の違いに
対応した変化が確認されています。

別のfMRI研究でも、
「痛みが強くなる」という予測によって、
同じ刺激に対する痛みの評価と脳活動が変化しました。

◎この研究から分かること

  • 薬そのものの作用だけで痛みが決まるとは限らない
  • 「効きそう」「効かなそう」という期待も治療効果に影響する
  • 説明や言葉も、治療を構成する要素の一つになる

◎この研究だけでは言えないこと

  • すべての痛みが思い込みで生じる
  • 言葉を変えれば病気やけがが治る
  • 薬や医学的治療が必要なくなる

■研究全体ではどこまで分かっている?

2024年に発表されたシステマティックレビューとメタ解析では、
130研究・8,219人分のデータが検討されました。

その結果、ノセボ効果は、
痛みを含むさまざまな身体症状で
実験的に誘発できることが示されています。

一方で、次のような限界もあります。

  • 実験室内で行われた研究が多い
  • 健康な参加者を対象とした研究も多い
  • 実際の慢性痛患者に同じ結果が出るとは限らない
  • 人によって影響の大きさが異なる
  • 痛みの原因すべてを説明できるわけではない

つまり、ノセボ効果は無視できない現象ですが、
どんな痛みでも言葉だけで説明できるほど単純ではありません。
(当たり前ですが)


■異常=痛みとは限らない

ノセボ効果を考えるうえで、
覚えておきたい事が一つあります。

画像に変化(異常)があることと、
その変化が現在の痛みを
起こしていることは同じではありません。

2015年のシステマティックレビューでは、
痛みのない人にも脊椎の変性所見が多く見つかることが報告されました。

https://www.ajnr.org/content/36/4/811

◎症状のない人に見つかった割合

MRI所見
・20代 椎間板変性:37%
    椎間板膨隆:30%

・80代 椎間板変性:96%
    椎間板膨隆:84%

年齢とともに、
痛みがない人にも画像上の変化は増えていきます。

だからこそ、画像所見は、

  • 現在の症状
  • 痛みが始まった経緯
  • 身体診察の結果
  • 神経症状の有無
  • 日常生活への影響

などと合わせて判断する必要があります。

もちろん、
これはMRIには意味がないという話ではありません。


■MRIの伝え方を変えると、その後の状態も変わる?

Rajasekaranらは、
重大な病変が確認されなかった
慢性腰痛患者44人を、次の2群に分けました。

①MRI所見を病変中心の言葉で説明した群
②年齢に伴う一般的な変化として、安心材料を含めて説明した群

両群は、その後、同様の保存的治療を受けました。
6週間後、安心材料を含めて説明された群のほうが、
痛み、
痛みに対する自己効力感、
身体機能で良好な結果を示しました。

※「年齢による症状ですね」等の表現

ただし、この研究は44人を対象とした単一施設の小規模研究です。

「説明を変えれば慢性痛が治る」とまでは断定できません。


■診断名だけでも受け止め方は変わる

1,375人を対象にしたオンライン研究では、
同じ腰痛の想定事例に対して、
異なる診断名が提示されました。

使用された主な表現は、

  • 椎間板膨隆
  • 変性
  • 関節炎
  • 腰部捻挫
  • 非特異的腰痛
  • 腰痛の一エピソード

です。

「椎間板膨隆」「変性」「関節炎」
と説明された人は、他の表現を用いた人よりも、

  • 画像検査が必要だと感じる
  • 手術が必要だと感じる
  • セカンドオピニオンが必要だと感じる
  • 症状をより深刻に受け止める
  • 回復への期待を低く見積もる

傾向が確認されました。

ただし、これは実際の患者の治療成績を比較した研究ではありません。


■ノセボを生みだす避けたい言葉

大切なのは、事実を隠すことではありません。

事実に加えて、

  • その所見が何を意味するのか
  • どの程度一般的なのか
  • 何ができるのか
  • 今後どのように進めるのか

まで説明することです。

画像

■説明する側が意識したい5つのポイント

医療・施術・トレーニングの現場では、次の点が重要です。

◎断定しすぎない

身体の痛みには、複数の要因が関係します。
一つの姿勢、一つの筋肉、
一つの画像所見だけを原因と決めつけないことが大切です。

◎怖い言葉だけを残さない

「変性」「断裂」「狭窄」
といった言葉を伝える場合は、
その程度、一般性、症状との関係も一緒に説明します。

◎安全にできることを伝える

禁止事項だけでは、
身体を動かすことへの恐怖が強くなります。

「何ならできるのか」
「どの程度から始めるのか」
も具体的に示します。

◎回復の選択肢を示す

改善できる要素や、本人が取り組めることを伝えます。
これは根拠のない励ましではなく、
現実的な見通しを共有することです。

◎専門範囲を守る

医療資格を持たないトレーナーや施術者は、
MRI画像を独自に診断したり、
医師の診断を否定したりしてはいけません。


■説明を受ける側が確認したいこと

検査結果や身体の説明を聞いて不安になったら、
次のように質問してみてください。

  • この所見は、症状のない人にも見られますか?
  • 今の痛みとの関係は、どの程度はっきりしていますか?
  • 将来必ず悪化するものですか?
  • 日常生活で続けてもよいことは何ですか?
  • 運動はどの程度から始められますか?
  • 改善のために、自分で取り組めることはありますか?

説明を聞いても不明な点が残る場合は、
遠慮せずに確認することが大切です。


■ノセボ効果について誤解してはいけないこと

最後に、重要な注意点を整理します。

  • 痛みがすべて思い込みで生じるわけではない
  • 画像検査や診断が不要という意味ではない
  • 病気やけがを軽視してよいわけではない
  • 言葉を変えるだけですべての痛みが治るわけではない
  • 検査結果や治療リスクを隠してよいわけではない
  • 服薬や治療を自己判断で中断してはいけない

強い症状、悪化している症状、
普段と違う症状などがある場合は、
ノセボ効果だと自己判断せず、医療機関へ相談してください。


■まとめ

ノセボ効果とは、
否定的な予測や不安によって、
痛みや不調が生じたり強くなったりする現象です。

ノセボ効果は、
気持ちが弱い人だけに起こるものではありません。
人間の脳が、周囲の情報から危険を予測し、
身体を守ろうとする働きの一部です。

だからこそ、身体について説明するときは、
次の3点が大切です。

①事実を正確に伝える
②必要以上に怖がらせない
③改善できる要素と安全にできることを示す

言葉は、薬や施術そのものではありません。

しかし、治療や運動に向き合う気持ち、
身体を動かす自信、痛みの受け止め方に影響する重要な要素です。

説明の言葉を少し工夫することが、
回復へ進むための支えになるかもしれません。


■参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.govpubmed.ncbi.nlm.nih.gov

A Functional Magnetic Resonance Imaging Study on the Neural Mechanisms of Hyperalgesic Nocebo Effect – PMCPrevious studies suggest that nocebo effects, sometimes termepmc.ncbi.nlm.nih.gov

pubmed.ncbi.nlm.nih.govpubmed.ncbi.nlm.nih.gov

pubmed.ncbi.nlm.nih.govpubmed.ncbi.nlm.nih.gov

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