「身体が硬いと疲れやすい」
「身体が柔らかい人は疲れが溜まりにくい」
皆さんも一度は、
このような話を聞いたことがあるのではないでしょうか。
実際、疲労回復や身体の
コンディショニングを目的として、
日常的にストレッチを取り入れている方も多いと思います。
では、
本当に身体が柔らかい人ほど疲れにくく、
翌日に疲労が残りにくいのでしょうか?
今回は、柔軟性と疲労の関係について、
科学的な研究結果をもとに解説していきます。
① 結論:身体が柔らかい人ほど疲れにくいのか
最初に結論からお伝えします。
現時点では、
柔軟性が高い人ほど疲れにくい、
あるいは疲労からの回復が早い
と断言できる十分な科学的根拠はありません。
ここで重要なのは、
柔軟性と疲労への耐性は
必ずしも同じ能力ではないということ。
柔軟性は、簡単にいえば関節をどれだけ大きく動かせるかという能力です。
一方、疲れにくさには
筋力、全身持久力、睡眠、栄養状態、
心理的ストレスなど、
さまざまな要因が関係しています。
つまり、前屈で床に手がつく人が、
床に手がつかない人より疲れにくいとは限らないのです。
※柔軟性に価値が無い訳では無い
必要な関節可動域を確保することは、
日常動作やスポーツ動作を行ううえで重要です。
問題は、
「柔軟性が高いこと」
と
「疲れにくいこと」
を直接結びつけてよいのかという点です。
② 肉体的疲労と柔軟性の関係
まずは、筋肉の疲労について考えてみましょう。
例えば、同じ距離を歩いた場合でも、
疲れやすい人と疲れにくい人がいます。
この違いには、
当然筋力や全身持久力、歩行速度、身体の状態などが関係します。
では、柔軟性が高ければ筋肉の疲労を抑えられるのでしょうか?
この点について、
柔軟性が高い人ほど筋疲労を起こしにくいと
結論づけられる十分な研究結果はありません!
ストレッチと運動パフォーマンスの関係を調べた研究もあります。
2016年に発表されたシステマティックレビューでは、
ストレッチの種類によって、
その直後の運動パフォーマンスへの影響が異なることが報告されています。
よく言われる話ですが、
静的ストレッチを長時間行った直後には、
筋力や瞬発力などのパフォーマンスが
一時的に低下する場合があります。
一方、動的ストレッチでは、
運動パフォーマンスに好ましい影響がみられる場合もあります。
つまり、ストレッチは
実施方法や目的によって効果が異なり、
単純に「柔らかくすれば疲れにくくなる」
とは説明できないのです。
参考論文
Behm et al.(2016)
Acute effects of muscle stretching on physical performance, range of motion, and injury incidence in healthy active individuals: a systematic review
pubmed.ncbi.nlm.nih.govpubmed.ncbi.nlm.nih.gov
③ ストレッチで翌日の筋肉痛は軽減するのか?
次に、運動後の疲労について考えてみます。
「運動後にストレッチをすると、翌日の筋肉痛を予防できる」
研究結果を見ると、少し異なる実態が見えてきます。
2011年に発表された
コクラン・レビューでは、
運動前後のストレッチが、
運動後に発生する筋肉痛にどの程度影響するのかを検証しています。
※12件の研究を対象
その結果、運動後にストレッチを行った場合、
翌日の筋肉痛の軽減効果は、
非常に小さなものでした。
運動前後のストレッチによって、
健康な成人の筋肉痛が臨床的に
重要な程度まで軽減されるとはいえないと結論づけています。
つまり、
運動後にストレッチを行えば、
翌日の筋肉痛を大幅に予防できるというわけではありません。
ただし!
筋肉痛と疲労は、厳密には別の現象です。
筋肉痛が軽減しないからといって、
ストレッチにリラックス効果や
主観的な疲労感を和らげる効果が一切ないと結論づけることはできません。
※ストレッチ自体には別のメリットがありますのでご安心下さい
参考論文
Herbert et al.(2011)
Stretching to prevent or reduce muscle soreness after exercise
pubmed.ncbi.nlm.nih.govpubmed.ncbi.nlm.nih.gov
④ 精神的疲労や神経疲労との関係は?
精神疲労・神経疲労とストレッチの関係はどうか。
例えば、
デスクワークや長時間の集中作業によって感じる疲労です。
このような疲労に対して、
ストレッチをすると気分がすっきりしたり、
身体が軽く感じられたりすることがあります。
実際、ストレッチをリラックス目的で
取り入れている方も多いでしょう。
しかし、ここでも区別したいことがあります。
それは、
「ストレッチによって一時的に気分が改善すること」
と
「柔軟性が高い人ほど精神的に疲れにくいこと」
は別の話
だということです。
身体が柔らかいからといって、
長時間の集中作業に強いとは限りません。
また、柔軟性が高いほど
中枢神経系の疲労が軽減されるという
直接的な関係についても、
十分な科学的根拠は確立されていません。
精神的疲労には、睡眠不足、
ストレス、作業時間、認知的な負荷など、
さまざまな要因が関係しています。
したがって、
精神的な疲労を改善するために、
柔軟性の向上だけを目標にするのは適切とはいえないでしょう。
※ストレッチによって副交感神経が優位になり
心身のリフレッシュになる事はある。
⑤疲れにくい身体をつくるために
では、身体の柔軟性よりも、
疲れにくい身体づくりに重要なものは何でしょうか?
代表的なものとして、以下が挙げられます。
◎筋力の向上
筋力が高まることで、
日常動作に必要な力が、
自分の最大筋力に対して相対的に小さくなります。
その結果、同じ作業でも身体への
負担を抑えられる可能性があります。
◎全身持久力の向上
ウォーキングやジョギングなどの
有酸素運動によって心肺機能が向上すると、
同じ身体活動をより低い相対的負荷で行えるようになります。
特に、日常生活で疲れやすさを感じる方にとって重要な能力の一つです。
◎十分な睡眠
睡眠は、身体的・精神的な回復に欠かせません。
運動やストレッチを頑張っていても、
睡眠不足が続いていれば疲労感が強くなる可能性があります。
◎適切な栄養と休息
エネルギー不足や過度な身体活動は、
疲労を増大させる要因になります。
身体を動かすことだけでなく、
必要な栄養を摂取し、適切に休むことも重要です。
◎ストレスの管理
疲労感は身体的な負荷だけで決まるものではありません。
心理的ストレスや生活環境なども関係しています。
疲労を軽減するには、
身体と精神の両面から考える必要があります。
なお、これらの重要性や効果の大きさは、
疲労の原因や個人の健康状態によって異なります。
⑥まとめ
今回の内容をまとめます。
- 柔軟性が高い人ほど疲れにくいという十分な科学的根拠はない。
- 身体が柔らかくても、筋肉が疲労しにくいとは限らない。
- 柔軟性と精神的疲労・中枢性疲労の直接的な関係は明確になっていない。
- 運動前後のストレッチによる翌日以降の筋肉痛軽減効果は、あっても非常に小さい。
- ストレッチは関節可動域の改善に役立つが、疲労回復能力の向上とは区別する必要がある。
- 疲れにくい身体づくりには、筋力・全身持久力の向上や、睡眠・栄養・休息などが重要。
最後に
私は普段、フィットネスやボディケアを通して、
さまざまな方の身体づくりやコンディショニングをサポートしています。
その中でも、柔軟性の向上を目的に
ストレッチを取り入れることがあります。
しかし、今回の研究結果からも分かるように、
柔軟性の向上がそのまま疲労軽減につながるとは限りません。
だからこそ、
身体を柔らかくすることだけを目的にするのではなく、
筋力や持久力を高めること、
そして適切な休息を取ることも大切だと考えています。
「身体を柔らかくすること」と
「疲れにくい身体をつくること」は、
似ているようで異なるものです。
ストレッチにはストレッチの役割があり、
筋力トレーニングや有酸素運動にはそれぞれの役割があります。
大切なのは、それぞれの効果を正しく理解し、
自分の目的に合った方法を選択することではないでしょうか。
SUGAYA PROJECT
代表 菅谷智紀
出張訪問フィットネス・ボディケアを通して、
健康・体力向上、疲労やストレスへの対策をサポートしています。
